医師が不動産投資をする際、どうしても頭から離れないのが「失敗」の2文字だと思います。
医師は、極度に失敗を恐れる生き物です。
無理もありません。仕事上の失敗は、患者さんの健康や命を損ねます。
今までの人生、基本的には「失敗」よりも多くの「成功」を積み重ねてきた、過去があるでしょう。
医師が不動産投資という、専門外の世界で失敗を恐れるのは、ごく自然な事だと思います。
今回は
- 医師が不動産投資で失敗する人はどうなるか
- どのような失敗の仕方があるのか
を、網羅していきます。
医師は不動産投資で「失敗」する確率が高い?
医師は不動産投資で失敗する確率が高い、というイメージがあると思います。
正直、その側面は否めません。
ではまず、不動産投資の「失敗」とは一体何なのでしょうか。
不動産投資の「失敗」の定義
不動産投資の「失敗」の定義は、実は簡単明瞭です。
インカムゲイン+キャピタルゲイン<0
です。
インカムゲインとは、家賃の出入りで手元に残った、トータルのお金の事。
つまり
家賃ー(返済+諸経費)
です。
キャピタルゲインとは、売買の差額の事。
つまり
売却金額ー(購入金額+諸経費)
です。
これらが不動産投資における、2種類の収入です。
インカムゲインとキャピタルゲインの合計値がゼロ以下であれば、これは不動産投資の「失敗」です。
逆にゼロ以上であれば、一応成功と定義して良いでしょう。
ここで「一応」としたのは、定義がゼロという絶対値であるため、物価上昇率や他投資商品との相対比較ができていないからです。
例えば、10年かけて行なった不動産投資で
インカムゲイン+キャピタルゲイン=0
だったとします。
損も得もしていません。
この時、例えば
- 国債利回りが年2%だった
- 物価が10年で2倍になった
という事であれば、相対的に考えれば事実上はマイナス。
この不動産投資は失敗と言えます。
ここでは簡単にするために、時間軸や相対値での評価は省きます。
不動産投資の「失敗」は確率で考える
不動産投資の「失敗」の定義がハッキリしました。
さて、ここでもうお気づきの方がいらっしゃるかもしれませんが、不動産投資が「失敗」するかどうかは、実は誰にもわかりません。
未来の事は、誰にもわからないからです。
不動産投資の失敗の定義には
- 将来、いくらで売却できるのか
- 10年後、いくらの家賃をもらえるのか
など、キャピタルゲインやインカムゲインに影響を与える要素に、時間軸が乗っています。
時間軸で変動する変数です。
未来の事は誰にもわかりませんので、時間軸で変動する変数も誰にもわかりませんから、不動産投資が「失敗かどうか」は、決して今この時点では誰にもわからないのです。
しかし、多くの不動産投資家には不安がありません。
失敗する可能性を抱えたまま、何十年と不動産を保有し続けるのに。
一体なぜでしょうか。
それは不動産投資の失敗を、確率論で考えているからです。
天気予報、スポーツの勝敗、ギャンブル…
あらゆる「未来における不確実な事象」は、確率論で語られます。
確率は、不確実な未来を照らす唯一の武器です。
時間軸の変数を内包する不動産投資もご多分にもれず、確率で考えるべきです。
例えば
埼玉県さいたま市に新築アパートを買おう。
建物6000万、土地4000万で合計1億。年間家賃は900万円で、利回り9%だ。
さいたま市は、政府の人口推計予測によれば、30年後の人口はむしろ増えている予測だ。
土地の価値は、そう簡単に下がらないだろう。
将来的には、最低でも土地の値段、つまり4000万円では売却できるだろう。
頭金1000万円を入れて、9000万円を金利1%、22年ローンで組んだとして、年間返済は455万円。粗利で445万円、諸々抜いても年間350万円くらいは残るぞ。
しかも、13年保有すれば残債が4000万円を下回る。
インカムゲインが毎年350万円プラスで、13年後にはキャピタルゲインも出る。
追加で3年、合計16年保有すれば、頭金の回収もできそうだ。
唯一の懸念材料は金利上昇だが、あと16年で金利が10倍になる確率は、ほぼゼロだ。
むしろ金利が上昇するという事は、インフレ局面であり、不動産価格や家賃相場も上がっているだろうから、不動産投資家には有利だ。
よし、これは失敗する確率が低そうだな。
という感じです。
不動産投資家は、集められるだけ情報を集めて、確率の高い勝負をしています。
相手が見えないから、不安があります。
確率を使って、未来という相手を見る。
銀行からの借入が比較的簡単な、高属性な医師だからこそ、よく勉強して頭を使って不動産投資に挑んで欲しいです。
医師が「不動産投資の失敗」に気がつかない理由
医師が不動産投資の失敗に気がつかない、という事はたまに見聞きします。
流石に「先生、その不動産投資、失敗しているよ!」とは言えないので、苦笑いをしています。
医師が不動産投資の失敗に気がつかないのは、簡単な理由です。
勉強不足だから。
医師は勉強エリートなのに、不動産投資においてはなぜか不勉強な人が結構います。
上記の内容を理解していれば「まずそんな不動産投資はしないだろう!」というような案件にも、手を出してしまうのです。
医師になれたくらいですから、少し勉強すればすぐに理解できるような内容なのに、面倒なのか、一切勉強をしないという人もいます。
それでいて、数億の借入をサラッとしている人もいるので…僕としては背筋が寒くなります。
医師が不動産投資で失敗したくなければ、勉強しましょう。
医師の不動産投資、5つの失敗事例
医師の不動産投資で、失敗した事例を具体的に紹介します。
内容は、実際に見聞きした事例を、特定できない範囲で一般化したものです。
医師の不動産投資失敗事例1、サブリース
医師の不動産投資の失敗事例1つめは、サブリースです。
サブリースとは、不動産会社が物件を借り上げをし、客付けやリフォームを代わりにやってくれるシステムの事です。
想定家賃より少し安い値段で、家賃保証が付きます。
例えば
想定家賃10万円、サブリースなら9万円
という感じです。
自分で所々の努力をして、毎月10万円の家賃をもらうか、業者に丸投げして、空室期間中もサブリース賃料をもらうか。
忙しい医師は、サブリースを選びがちです。
しかしこのサブリース、一見すると双方がwin-winな、良好な取引に見えますが、そうではありません。
日本では法律上、どうしても借り手側の保護が手厚くなっています。
サブリースの場合の借り手は、業者と入居者です。
サブリース業者は、オーナーである医師から物件を借り上げているため「借り手側」でもあり、同時に入居者に貸す「貸し手側」でもあります。
業者は借り手側の性質を持っているが故に、法律上かなり手厚い保護を受けています。
具体的には
- サブリース賃料の減額
- サブリース期間の延長
などが、業者優先で行われます。
ある日突然、サブリース賃料が9万円から7万円に減額されたとします。
医師側も借入返済があるでしょうから、業者を変えたくなりますよね。
しかし業者側は「借り手」でもあるので、貸し手側である医師が、一方的に契約を打ち切る事はできません。
業者が「まだ借りたい」と言えば、減額された賃料でそのまま貸さなければなりません。
これは日本の法律を逆手に取った手法であり、情報の非対称性から生まれる、1つの搾取構造です。
全てのサブリースがそうとは言いませんが、中には医師を騙そうとするような悪質なサブリースもあります。
意図的に、かなり高額なサブリースを付帯している場合です。
例えば
想定家賃10万円、サブリースなら9万円
は、常識的な範囲です。悪質なのは
サブリースで12万円(想定家賃10万円)
など、想定家賃より高いサブリースを付帯している場合です。
これは一見すると業者が毎月2万円損をし、医師側が得をするように見えますが、そうではありません。
医師側に、物件そのものを高く売りつけるためのスキームです。
上記物件を、利回り5%で購入するとします。
想定家賃10万円、年間家賃120万円
物件価格2400万円なら、利回り5%
一方で高額サブリースを付帯すると
想定家賃12万円、年間家賃144万円
物件価格2880万円なら、利回り5%
と、同じ物件で同じ利回りのはずなのに、480万円も高く買う事になります。
本来、想定家賃10万円のはずですから、実質的な利回りは
120万/2880万×100=4.17%
なはずです。
医師側に480万円高く買ってもらえば、毎月2万円で1年間損を出したとしても、1年後にサブリース賃料の減額を行えば、十分プラスで取引を終える事ができます。
このスキームに騙されないためには、想定賃料を把握しておく事です。
医師は忙しいため、購入する物件のスペックに対して、想定賃料を確認しないまま購入しがちです。
- SUUMO
- HOMES
- at home
など、ポータルサイトで似たようなスペックの物件の賃料を調べれば、数分でわかるはず。
その数分をサボっただけで、数百万円の損失を出す事があるのが、不動産の怖いところでもあります。
医師は確かに忙しいですが、物件を購入するならば
- 想定家賃より高いサブリースが付帯していないか
- サブリースを任せる業者に悪い噂が立っていないか
くらいは、絶対に確認しておくべきです。
医師の不動産投資失敗事例2、割高物件
医師の不動産投資の失敗事例2つめは、割高物件です。
医師は当然、不動産の素人です。
物件のスペックに対して、どれくらいの利回りが相場なのか、知らずに購入する医師がいます。
素人なので知るわけがないのですが、知らなければ割高物件を買う事になります。
具体的には
相場が1500万円の中古区分マンション
医師が2500万円で購入
くらいの話は、そこら辺に落ちています。
相場の倍とまではいきませんが、十分割高です。
割高物件を避けるためには、相場を知る必要があります。
どうやって知るのか。
簡単です。物件を1000件見てください。
ポータルサイトで、1日10件、3ヶ月見続けて下さい。
流石に相場がなんとなくわかってくるはずです。
医師の不動産投資失敗事例3、不利なローン
医師の不動産投資の失敗事例3つめは、不利なローンです。
医師は属性が高いため、銀行からすれば貸したい相手ですが…条件によります。
例えば
築30年RC、利回り8%、金利3%、30年
などの条件で、ローンを組んでいる医師はそれなりにいます。
お分りかと思いますが、金利が高いですよね。
おそらく業者に

金利が高くても、後から借り換えできますから、医師なら大丈夫です
みたいに言われたのだと思います。
この場合、おそらく借り換えは難しいでしょう。
まず築30年のRCの残存耐用年数は17年です。ローン期間は長く見積もっても20年くらいです。
無理やり30年借りているので、同条件でお金を貸してくれる銀行は、かなり少ないはず。
金利の減額交渉も、不可能ではないですが難しいでしょう。
融資期間を無理やり長くするという事は、銀行側もリスクを取っているという事。
リスクに見合う高金利がなければ、貸してくれないはずです。
銀行からするとハイリスクな、借りる側からすれば不利なローンだからこそ、金利も下げれなければ、借り換えも難しい。
医師とはいえ、不利な条件で組まれたローンは、借り換えが難しく、金利を下げるのは難しいと言えます。
不動産投資をするなら、ファイナンスに関する勉強も避けては通れません。
医師は忙しいのと、自分は高属性だと思っている傾向にあるので、あまりファイナンスの勉強をしません。
当然、勉強をしなければ素人である医師が半ば騙されて融資を組まれる可能性は、十分にあると言えます。
医師の不動産投資失敗事例4、新築の罠
医師の不動産投資の失敗事例4つめは、新築の罠です。
医師が不動産投資を始める場合、新築を購入するケースは結構あります。
新築は設備が新しいため、そう簡単に壊れたり故障したりがありません。
しばらくはメンテナンスフリーです。まさに忙しい医師には最適です。
一方で、新築を購入して後悔している医師もいます。
新築を購入する際「想定利回り」で購入します。
この想定利回りが、かなり盛られている場合があります。
例えば

都内新築木造、利回り7%、1億ジャスト!
みたいな案件です。
年間想定家賃が700万なわけですが、似たようなスペックの物件で想定家賃を引き直すと、年間想定家賃は560万が適正、なんて事がザラにあります。
これだと利回りが5.6%に低下しますね。
新築の場合、当然ながら建てている段階では入居者がいませんから、想定利回りで判断するのは致し方ありません。
しかしながら、その想定家賃が適正かどうか、実現可能かどうかは、事前に調べればわかります。
1つ目のサブリースと同じです。
周辺の似たようなスペックの物件の、募集賃料の平均値を求めよ。
という問題を、必ず解いてから挑んで下さい。
医師の不動産投資失敗事例5、高利回りの魔法
医師の不動産投資の失敗事例5つめは、高利回りの魔法です。
パッと見高利回りの地方物件、その魔法が解ける時があります。
先ほど新築の「想定利回り」はアテにならない、と話しましたが、時には中古の「現在利回り」さえ、アテになりません。
こんな物件です。
地方木造、築25年、6000万、年間家賃900万(現在満室、利回り15%)
一見すると、地方ならではの高利回りで良さそうに見えますよね。
この物件を、とある医師が購入。
購入して数ヶ月で、退去が大量に発生。
入居をかけなおすと、今までの家賃が相場とかけ離れて高く、大幅な減額を迫られる事になりました。
実際のところ、年間家賃600万円、利回り10%というフツーの案件になってしまいました。
前オーナーが、無理やり高い家賃で入居付けをし、利回りを高く見せかけた可能性が高いです。
具体的には
- 敷金礼金ゼロ
- 家具家電プレゼント
- フリーレント3ヶ月
などの条件で入居者を募り、無理に入居を埋めていたのでしょう。
多少高い家賃でも1〜2年の短い期間であれば、借りる側からしてもメリットのある条件です。
オーナー側も、売却を考えるならば高い家賃で利回りを高く見せ、高く売る方が合理的。
やはりこの場合も、既存入居者の家賃が適正かどうか、チェックを怠ったのが原因です。
忙しい医師も、適正家賃の調査は必ず行うようにしましょう。
医師が不動産投資に失敗、その損失額
医師が不動産投資に失敗すると、いくらの損失を被るのか。
気になるところだと思います。
上記の失敗パターン別で、ザッと確認します。
まず1つめ、サブリース。
上記の内容の物件を20件弱、5億円くらい購入し、毎月サブリース賃料が200万円得ていた医師が、サブリース賃料の減額によって130万円ほどに一気に減額されていました。
借入金の返済が170万円ほどあったので、毎月40万円の赤字を垂れ流しています。
医師ならではですが、バイトを無理やり増やして赤字を補填しています。
2つめ、割高物件。
割高物件を購入した医師は、途中で怖くなって売却していました。
賢明な判断です。
よく売却できたなー、と思っていたら…同業者である医師に、より高い値段で売却したそうです。
まさにババ抜き状態。恐ろしいですね。
結果的に損失は出ず、売却益が出ています。
割高物件を販売する不動産業者は、購入する際は敵になりますが、売却する際には味方になる場合も。
しかしこれも時代や市況に影響を受けますから、うまく売却できるとは限りません。
3つめ、不利なローン。
不利なローンで不動産を購入した医師は、今も物件を持ち続けています。
今の時点では損失は出ておらず、良いかもしれませんが、築60年まで物件を所有する事になります。
数十年後、果たしてどうなるのでしょうか…。
4つめ、新築の罠。
新築の罠にハマった医師は、その1棟は保有し続けています。
損失自体も、それほど大きな損失にはならず、トントンくらいだそうです。
その医師は勉強をし直して、追加で数棟保有し成功しています。
失敗は成功への糧となります。失敗を生かす事ができれば、失敗で終わる事はありません。
5つめ、高利回りの魔法。
高利回りの魔法がかかった物件を購入した医師は、数年保有した上で、同様の手法で売却しました。
損失は回避し、売却益が出ている状態です。
医師が不動産投資で失敗しないために
医師が不動産投資で失敗するパターンを、いくつか述べてきました。
対応策として総じて言えるのは
よく勉強しよう
という事です。
医師に時間が無いのは確かです。
でも時間が無いからという理由で、一切不動産の勉強をせずに購入するくらいなら、何もしない方がマシだと思います。
医師が不動産投資で失敗するのを防ぐには、まず勉強する事です。
